染織を学ぶ【伊那紬】〜伊那谷に伝わる温もりの織物〜見学の記録

伊那紬

 長野県で作られる信州紬の一つで 経済産業省指定の伝統的工芸品です。 

長野県は縦長で 地域によって好みも産物も少しずつ違うとか・・・。

紬も例外ではなく、上田紬、松本紬、飯田紬と伊那紬では 特徴が異なります。 


伊那紬の特徴は 草木染めと手織りです。

 伊那紬の作られている駒ヶ根市は長野県の南部、中央アルプスと南アルプスに囲まれた伊那谷、天竜川の流れるところ。比較的雪が積もらず、温暖で大正から昭和にかけて養蚕や製糸工業が盛んな地域で『蚕の国、絹の国』でした。

染めの材料となる草木は山から、また染めに必要な大量の水は天竜川から求めることができました。まさしく地の利があったのですね。

 今回、伊那紬の唯一の生産者である駒ヶ根市 久保田織染工業株式会社さんを訪ねました。


久保田織染工業株式会社さん〜

伊那紬織元、創業103 年の信州の老舗です。 

かつては製糸業でしたが、今は糸作りから、染め、織りまでの伊那紬の一貫生産*1をされています。(工場内工程は分業。)

お話を伺ったのは専務さんです。


 ではさっそく工程の説明をします。

工程は大まかに『糸作り』、『染め』、『織り』です。

具体的に見ていきましょう!


【糸作り】

 製糸屋からきた糸は 製品に合わせた太さと風合いにするため、 生糸、玉糸*2、紬糸*3などをそのままであったり、組み合わて数本を撚り合わせます。(合糸と撚糸)

精練*4と糸叩きをして、次の工程へ。


写真:2つのボビンから1つのボビンに、糸を合わせていていきます。


【染め】

 染めの材料は 山桜、矢車玉、 りんご、エンジュ、カラマツ、シラカバ、ログウッドなど。 枝や幹、外皮、どんぐりなどの部位を煮出して染料にします。

 色の具合をみながら何度か染めを繰り返します。 草木染めでは染料を濃くするのではなく、染めの回数を増やすことで色を濃く、安定した色を染めることができます。

 実は 草木染めは色を再現することが難しい上に、色抜けやすいということがあります。また黄色や茶系の色が多いです。ですから、色の安定やバリエーションを求め化学染料の併用しているそうです。


写真;『だけかんば』は標高の高いところのカバノキのこと。ほぼ見た目はシラカバ。信州ならではの材料。薄茶色になるそうです。

写真:様々な色に染められた糸。主に右側に草木染めの糸。色合いが柔らかい。


【織り】

緯糸: 管巻き 

整経: デザインによって経糸を配列をしていく作業。

    失敗のできない大切な作業だそう。

写真:本日お休み中の整経の機械。

    さらに綜絖通し、さお通し、機かけへ。



機:  高機で手織り。 引き杼*5の足踏み綜絖*6。

   (紐を引っ張るとシャトルが飛び出し緯糸が通る。

    長年、『引き紐による”飛び杼”』と思っていましたが、こちらでは『引き杼』と言われていました。 私の理解がまだあやふやなのかもしれません。もう少し文献を調べることにします。)

織り手:10人ほどいらっしゃるそう。 半数ほどは自宅で織っていらっしゃるそうです。

柄:  無地、縞、格子、グラデーション、絣や白生地を織ることもあるそう。

    花織のほか、希少な天蚕糸(野生の繭から取れた野蚕糸、『絹のダイヤモンド』と呼ばれている。)を模様に織り込みことで生地に煌きを与えています。

    2m/ 日 がシンプルな織物のペースだそう。 着尺(着物一着分)は12mなので、2週間ほどですね。 


【仕上げ】

検品、湯どおし、出荷。


【風合い・色合い・デザインなど】

 デザインにもよりますが、紬糸のやわらかさが体に馴染む生地感。自然から取り出した優しい色合いで、どのように組み合わせても素朴な温もりを感じさせます。

 一方、シャリ感のある糸で夏物が作られていたのは 新しい発見でした。

 着尺のほか、帯地も、さらに絣模様や花織、ぜんまいを折り込むなど、デザイン性を高めて工夫し、伝統を守りつつ、新しいものに挑戦されています。



次回、見学後記へ

そもそも見学に行くことになったきっかけをはじめ、見学した感想などを記したいと思います。



******注釈******

*1 着物や帯の生産は 糸は糸屋、染めは染め屋、織は機屋というのがお決まり、一貫生産は珍しく、結城紬とこちらだけということでした。

*2 『玉糸』 2匹の蚕が作った1つの繭(玉繭)からとった糸。 丈夫で光沢があるが節があり扱いづらい糸。

*3 『紬糸』 繭から直接糸を引き出す生糸(きいと)に対して、 真綿(繭を広げたコットン状のもの)から紡いだ糸。

  真綿から手で直接糸を引いたものは『手つむぎ糸』は結城紬のみ。

 『手紡糸』は手紡機で真綿から手紡いだ糸。 

  こちらの工場ではカセを束ねる紐作りに手紡機を現役で使っているそうです。

  *糸の名称や 種類、特徴、特にややこしい漢字の使い分けと理解は 『きもの 検定1級』に不可欠です。

*4 精練・せいれん 絹の膠質を落とし繊維質を表面化すること。この作業で絹の特性であるしなやかさと光沢がでます。

*5 引き杼 紐を引くことによってシャトルを動かし、緯糸を通す。

 参考:『バッタン機』、『飛び杼』、『ジョン・ケイ』、『1733年』は 『きもの 文化検定1級』には抑えておきたいキーワードです。

*6 足踏み綜絖 綜絖とは経糸を上げ下げする装置のこと。その綜絖を足踏みによって操作するもの。平織は2枚綜絖。 花織は4綜絖。


久保田織染工業株式会社様のHP

https://inatumugi.com/index.html

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